大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(行コ)75号 判決 1981年1月28日

控訴人(被告) 練馬税務署長

訴訟代理人 布村重成 奥原満雄 外二名

被控訴人(原告) 小沢弘道 外四名

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人指定代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件相続の対象及びその評価について

仮に、東京都練馬区高松三丁目三、六九三番一所在の土地(以下、本件土地という。)の売買契約が所有権留保の特約付であつたとしても、被控訴人らの相続財産となるものは、本件土地(所有権)自体であるとみるべきではなく、被控訴人らの被相続人亡小沢藤助が生前に締結した売買契約によつて留保された土地所有権(土地に対する現実の占有支配、使用収益を全く伴わない単なる観念的所有権)と右契約上のその余の権利義務が一体不可分となつて結合しているものとみるべきである。換言すれば、被控訴人らが相続によつて承継取得したものは、本件土地に関する所有権留保付売買契約上の売主としての地位ないし権利義務そのものである。これを資産性の面に即していえば、所有権留保によつて担保された売買代金債権(手付、内金等の既収金を含む。)ということになる。そして、このような留保された土地所有権と一体不可分の関係にある売買契約上の売主としての地位の評価については、相続税財産評価に関する基本通達の評価基準に定める路線価額によるべきではなく、本件売買の契約価額によるべきである。すなわち、

1  本件のように、亡藤助がその生前すでに本件土地について売買契約を締結し、同契約に定められた売買代金額が通常成立する取引価額として客観的に相当な額の範囲内のものであり、しかも右契約時と極めて近接した時点において相続が開始しているにもかかわらず、所有権留保の特約の存在により、相続の対象たる遺産が土地自体であるということから、その時価を当該売買価額ではなく、あえてこれより遙かに低額の路線価額であるとするのは、極めて常識に反し不合理である。

そもそも、前記通達に定める評価基準は、相続が開始した場合における一般的な評価基準を定めたものであつて、本件のように、土地について現に客観的に相当な額の対価を定めた売買契約が有効に存在し、相続によつて当該契約上の地位を承継する場合には、右評価基準を適用する余地は全くない。

2  また、土地について被相続人がその生前すでに売買契約を有効に成立させている場合の相続は、このような契約の全く存しない土地の相続の場合と異なり、相続人は相続に伴い、当該土地にいわば一体不可分の関係で付着している売買契約上の当事者としての地位をも併せ承継取得しているのであるから、相続にかかるこの契約上の地位を相続財産としての面から評価するに当つては、当該契約価額(代金債権)をもつてするのが最も適切である。

3  本件において、被控訴人らは遺産分割において本件土地を各自の相続分に応じて分割し、既収の売買代金一、六〇〇万円を前渡金であるとして、その返還債務を被控訴人の一人である小沢弘道が負担する旨の協議が成立したと称し、これを前提として、本件相続に関する相続税の申告をしている。しかし、実際には、被控訴人らは本件土地について何ら現物分割をしたわけでもなく、また亡藤助の受領した右既収代金についてこれを前渡金債務として買主側からその返還を求められたり、あるいは進んでその返還をしたという事実も全くなく、むしろ被控訴人らは、相続後単に亡藤助の締結した本件売買契約に基づいて当該売買代金の全額を相互間で分配(亡藤助の取得した手付・内金の合計額一、六〇〇万円については、遺産分割によつて相続人各自の取得した預金等の相続財産の中に混在して、現在ではその分配割合は不明であるが、残代金相当額二、九三九万七、〇〇〇円については各自の相続分割合において分配)したにすぎないのである。すなわち、本件相続は昭和四七年一一月二五日に開始したものであるが、被控訴人らは、翌月一五日には残代金の全額を受領し(契約上は相続開始わずか五日後の一一月三〇日に受領する予定になつていたところ、亡藤助の急死で被控訴人らの印鑑証明書等の書類作成のため延期されたものである。)、翌一六日に本件土地の所有権移転登記を申請したものであつて、右の相続開始時には、被控訴人らが法律上既収の売買代金を返還しなければならないような事情にはなかつたものである。したがつて、本件売買の場合、土地について所有権留保の特約が存すること及び所有権が留保されていることを理由にして、その相続の対象を、売買契約の全く存しない単純な土地の相続の場合と同視し、単なる土地(所有権)自体であるとするのは、本件相続の実体にそぐわないのであつて、むしろ、これを所有権留保付土地売買契約の売主たる地位―所有権留保によつて担保された売買代金債権―の承継であると構成する方が、右遺産分割の実体に合致するというべきである。

4  以上のような観点からすると、本件土地に関する相続関係は、所有権留保の特約の存しない売買における売主側の相続の場合と結論的に異ならないこととなる。なお、本件において相続財産に実際に加算されるべき右の売主たる地位の価額は、右の売買代金四、五三九万七、〇〇〇円のうちすでに回収済となつて他の相続財産に混入している一、六〇〇万円を控除した二、九三九万七、〇〇〇円となる。

二  譲渡所得税について

亡藤助が、生前本件土地の売買により売買代金債権(既収金を含む)を取得したことに伴い、所得税法上いわゆる譲渡所得が発生したといい得るかどうかはともかくとして、課税庁である控訴人は、本件売買を所有権留保の特約のない通常の売買と認定し、亡藤助に譲渡所得が発生したものとして、相続人である被控訴人らに対し、譲渡所得税に関する課税処分を行ない同処分はその後取消されることなく出訴期間を経過し、不可争的なものとして現に存する。しかる以上、課税庁たる控訴人としては、被控訴人らに対する本件相続税の課税処分をなすに当り、右譲渡所得税を控除するのは当然である(相続税法一四条二項)。

そこで、右譲渡所得税を控除すれば、控訴人主張に係る本件相続税は原処分のそれと全く同一となり、これを控除しないとすれば、相続税額は原処分を上廻る額となり、いずれにしても、原処分は適法である。

(被控訴人らの主張)

控訴人の主張は、要するに、本件相続税の対象になるのが本件土地であるか、それとも土地の売買代金債権であるかということに帰する。

1  しかし、本件の相続財産となるのは本件土地そのものであり、その評価は相続税財産評価に関する基本通達の評価基準に定める路線価額によるべきである。わが国では、右通達に従い、すべて路線価額によつて相続税を算出しているのであつて、この土地が過去に売買された土地であつても、現在売買が行われている土地であつても、また将来売買が予定されるであろう土地であろうとも、その取扱を区別する根拠は全く存しない。

控訴人の主張は、相続人の負担の公平と軽減をはかることを目的とする右通達に明らかに反する。

2  控訴人は被控訴人が相続によつて承継取得したものは売主としての地位そのものであるという。しかし、売主としての地位そのものが相続税の対象になるのではなく、そこに含まれる資産が相続税の対象になるのである。そして、本件で相続の対象になるのは、本件土地そのものであつて、控訴人が主張するような売買代金債権ではない。本件土地売買契約には、本件土地の所有権移転の時期を売買代金残金支払のときとするという特約が存し、本件相続開始時には未だ残金が支払われていなかつたのであるから、本件土地の所有権は被相続人亡小沢藤助にあり、これが遺産になるのである。

控訴人は、売買代金債権(未収金)が本件相続財産に属すると主張するが、本件土地が相続財産に属するとする前提に立ちながら、さらに売買代金債権をも相続財産に属すると主張するのは明らかに矛盾した主張である。

(証拠の関係)<省略>

理由

一  被控訴人ら主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、被控訴人らに対する各再更正及び過少申告加算税の各賦課決定に被控訴人ら主張の違法が存するかどうかについて判断する。

1  まず、本件土地の所有権が相続財産に属するかどうかについて判断するのに、亡藤助は昭和四七年七月七日その所有の本件土地につき岩沢らとの間で代金四、五三九万七、〇〇〇円で売買契約を締結したが、同契約においては、本件土地の所有権移転の時期を売買代金の残金が支払われた時とする特約があり、右残金が支払われたのは、昭和四七年一二月一五日であるため、同所有権は亡藤助が死亡した同年一一月二五日当時にはいまだ買主側の岩沢らに移転しておらず、したがつて、本件土地は亡藤助の遺産として同人の相続人である被控訴人ら及び亡藤助の妻訴外小沢とよに承継されたものであると認めるのが相当であるところ、この点に関する認定、判断は、原判決二一枚目裏四行目の次に改行して、「控訴人提出の乙第一一、第一二号証の各一、二、同第一四号証、同第一六号証及び当審証人岩崎恒克の証言も前掲甲第一号証及び原審証人関口文良、同布施貢の各証言ならびに原審における被控訴人小沢弘道本人尋問の結果に照らして措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」と付加するほかは、原判決理由欄二2(一)、(二)の記載(原判決一七枚目表四行目から同二一枚目裏六行目まで)と同じであるから、ここにこれを引用する。

したがつて、相続開始当時本件土地の所有権が買主側に移転していたことを前提とする控訴人の主張は採用することができない。

2  次に、控訴人の当審における新たな主張について判断する。

(一)  控訴人は被控訴人らの相続財産は亡藤助が生前に締結した売買契約によつて留保された土地所有者と右契約上のその余の権利義務が一体不可分となつて結合しているもの、換言すれば、本件土地に関する所有権留保付売買契約上の売主としての地位ないし権利義務そのものであり、資産性の面からみれば、所有権留保によつて担保された売買代金債権であると主張し、被控訴人らは、課税対象となるのは本件土地の所有権であると主張するので、この点について判断する。

前記引用にかかる原判決認定の事実によれば、本件土地売買契約は売買代金総額四、五三九万七、〇〇〇円と定められ、右代金は、昭和四七年七月七日の契約当日に手付金として六〇〇万円、同年九月三〇日に中間金として一、〇〇〇万円、残金は同年一一月三〇日限り所有権移転登記申請をするのと同時にそれぞれ支払う旨約されていたものであつて、本件相続が開始した同年一一月二五日までには、右手付金及び中間金は買主側から支払われたものであるが、藤助の急死による相続手続のため残金の支払及び所有権移転登記が前者は同年一二月一五日に、後者は翌一六日まで延期されたことが認められる。

(二)  そこで、右の認定事実によつて何を本件相続税の課税物件と解すべきかについて考えてみるのに、なるほど亡藤助の共同相続人である被控訴人らが承継している権利義務には、本件土地の売買契約上の売主としての地位に由来する残代金請求債権が含まれているのであるが、本件のように売買代金の支払完了時に目的物件の所有権が移転するという特約がある売買においては、代金未払の間は所有権が売主に留保され、買主には移転しないのであるから、右所有権と対価関係にたつ売買代金債権も確定的に売主に帰属するに至らないとみるのが相当である。ちなみに、本件のような特約のない通常の売買においては、売買の成立と同時に、目的物件の所有権は売主から買主に移転すると同時に売主は売買代金債権を取得し、これに伴つて、資産的価値も所有権が債権に転化するとみられるのであるが、本件のように所有権留保の特約がある場合には、右のような法的及び経済的変動は代金支払の完了時まで確定的には発生していないとみられるのである。

そうだとすれば、本件においては、相続開始時に代金の支払が完了していないこと前記のとおりであるから、売買代金債権は確定的には被控訴人らに帰属せず、したがつて、同債権を課税物件と解するのは相当でないものというべく、本件土地の所有権をもつて課税物件と解すべきである。

控訴人は本件土地の売主としての地位そのものを課税対象とすべきである旨主張するが、右の地位には、債権、債務が混在するものであるから、これを直接課税物件とすることは相当でなく、また、控訴人の主張は、結局のところ売買代金債権をもつて課税物件とすべきであるということに帰着するものであることその主張に照らして明らかであるから、前記説示に照らして、右主張には到底左袒することができない。

(三)  次に、本件土地の評価について検討する。

控訴人は、本件土地の評価は売買価格によるべきであると主張するのに対し、被控訴人らは相続税財産評価に関する基本通達の評価基準が定める路線価額によるべきであると主張する。

ところで、相続税法二二条は、相続財産の価格は特別に定める場合を除いて当該財産の取得時における時価による旨定めているのみで、同法は土地の時価に関する評価方法をなんら定めていないのである。そこで、国税庁において「相続税財産評価に関する基本通達」を定め、その評価基準に従つて各税務署が統一的に土地の評価をし、課税事務を行つていることは周知のとおりである。したがつて、右基準によらないことが正当として是認されうるような特別な事情がある場合は別として、原則として右通達による基準に基づいて土地の評価を行うことが相続税の課税の公平を期する所以であると考えられる。

そこで、本件について右通達の示す基準によらずに、取引価格をもつて評価することを正当視すべき特別の事情があるかどうかについて調べてみる。本件土地については、相続開始時における右通達の評価基準である路線価額は、二、〇一八万五、四三八円であることが弁論の全趣旨によつて認められるのに対し、実際の取引価額についてみると、相続開始時(昭和四七年一一月二五日)に近接した同年七月七日における売買価額は四、五三九万七、〇〇〇円であり、しかも、相続開始時までに内金一、六〇〇万円が支払われ、残代金は同年一二月一五日には完済されたこと前記のとおりである。そして、成立に争いのない甲第一号証、当審証人鳴海悠祐の証言によつていずれも真正に成立したと認められる同第一八号証、第二〇、第二一号証の各一、二、第二二号証、第二三号証の一、二ならびに弁論の全趣旨を綜合すれば、本件土地の相続開始当時における客観的な取引価額は少なくとも前記売買価額を下らないものと推認され、右認定を左右すべき証拠はない。

このように相続開始時における土地の評価額が取引価額によつて具体的に明らかになつており、しかも、被相続人もしくは相続人が相続に近接した時期に取引代金を全額取得しているような場合において、その取引価額が客観的にも相当であると認められ、しかも、それが通達による路線価額との間に著しい格差を生じているときには、右通達の基準により評価することは相続税法二二条の法意に照らし合理的とはいえないというべきである。

してみれば、本件土地の評価については、前記取引価額をもつてすることが正当として是認しうる特別の事情があるというべきであり、したがつて、控訴人のこの点に関する主張は理由があり、これに反する被控訴人らの主張は採用することができない。

3  そこで、進んで、控訴人主張の被控訴人らに関する相続税の課税価格及びその計算根拠について検討する。

(一)  被控訴人小沢弘道の相続税の課税価格について、原判決事実摘示の「被告の主張」1の(一)の金額並びに同金額に同(二)の(1)ないし(4)及び同(五)の(1)、(2)の各金額を加算し、同(三)の(2)の金額を減算すべきこと、被控訴人小沢一志、同小沢惟美及び同小沢兼八の相続税の課税価格について、「被告の主張」2ないし4の各(一)の金額、被控訴人五十嵐照江の相続税の課税価格について、「被告の主張」5の(一)の金額及び同金額に生命保険契約に関する権利九万五、四八四円を加算すべきことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  本件土地について

本件土地が相続財産に属すること及びその時価については売買代金と同額の四、五三九万七、〇〇〇円と評価すべきものであることについては前記説示のとおりである。

しかし、亡藤助が相続開始当時本件土地の売買に関して、手付金及び内金として合計金一、六〇〇万円を買主側から受領していたこと前記のとおりであり、右金員は相続開始当時、現金、預金あるいはその他の相続財産に混入していることが弁論の全趣旨から認められるので、本件土地の価額の計算に当つては、右手付金等の一、六〇〇万円相当分は、本件土地の価値から離脱しているとみて、これを控除するのが相当である(なお、右手付金等を未収金として相続債務に属するものと解すべきでないことは後記(三)のとおりである。)。

したがつて、本件土地は、その評価額である四、五三九万七、〇〇〇円から右一、六〇〇万円を控除した二、九三九万七、〇〇〇円の価額を有するものとし、また、被控訴人らの課税価格の算定に当つては、各相続分である各一五分の二に相当する三九一万九、六〇〇円を被控訴人らの取得財産価額に加算するのが相当である。

(三)  未収金について

本件においては、売買代金債権を課税物件とすべきでないこと、さきに述べたとおりであるから、売買残代金債権に当る未収金を相続財産として被控訴人らそれぞれの相続分相当額を被控訴人らの取消財産価額に加算すべき理由はない。

(四)  未払仲介料等について

本件相続開始時において本件売買に関する仲介料等四〇万〇、六〇〇円が未払の状態にあつたこと及び更正にかかる被控訴人らの債務控除額にはいずれも右未払仲介料等の額の相続分相当額が算入されていないことは当事者間に争いがない。

しかして、右未払仲介料等は亡藤助が本件土地の売買に関する必要経費として負つた債務であるから、本件土地の所有権が特約により相続開始時に買主側に移転していたかどうかにかかわらず、相続債務に属すると解するのが相当である。

したがつて、右未払仲介料等について被控訴人らの各相続分相当額(五万三、四一二円)を被控訴人らの債務控除額に加算すべきである。

(五)  未納譲渡所得税について

控訴人が本件土地売買による亡藤助の分離長期譲渡所得にかかる所得税と主張する六一八万〇、九〇〇円の被控訴人ら各自の相続分相当額(八二万四、一二〇円)が更正にかかる被控訴人らの債務控除額に算入されていないことは当事者間に争いがない。

しかして、右譲渡所得税は控訴人において本件土地の所有権が本件売買契約により亡藤助の生前に買主に移転されたことを前提として課税処分を行つたものであることは控訴人の自認するところである。しかし、譲渡所得に関する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者から、他に移転するのを機会に、これを清算して課税するものであるから、本件売買による土地の所有権移転が前記のとおり相続開始後であると認められる本件においては、亡藤助に本件売買による譲渡所得があつたということはできないけれども、右課税処分が出訴期間を経過し確定していることは被控訴人らの明らかに争わないところであるから、右譲渡所得税額の被控訴人ら各自の相続分相当額(八二万四、一二〇円)は、控訴人主張のとおり被控訴人らの債務控除額に加算するのが相当と解される。

(六)  預り金について

更正にかかる被控訴人小沢弘道の債務控除額には、亡藤助が受領していた本件売買にかかる手付金及び内金の合計額一、六〇〇万円が岩沢らからの預り金として同被控訴人が承継負担するものとして算入されていたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、右預り金とした金員は、前記認定のとおり、本件土地売買の手付金及び内金として亡藤助が受領したものであり、しかも、右売買については、相続開始当時解消されるような特段の事情があつたことを認めるべき証拠はなく、相続開始後、被控訴人らが残代金を受領し、右手付金等も返還されることなく右売買が完結されたこと前記のとおりである。

右認定の事実によれば、右金員は相続開始当時、亡藤助が買主側に返還すべき預り金債務としての性質を有するものと解するのは相当でないから、相続債務には属しないというべきであり、したがつて、右預り金の額は被控訴人小沢弘道の債務控除額から減算すべきである。

以上の次第であるから、被控訴人小沢弘道の相続税の課税価格は、原判決事実摘示の第三の二「被告の主張」1の(一)の金額二億〇、八一二万八、五一一円に、同(二)の(1)ないし(4)及び同(五)の(1)、(2)の各金額の合計一、六四九万二、〇二四円、前記(二)の三九一万九、六〇〇円、前記(六)の一、六〇〇万円を加算し、右「被告の主張」1の(三)の(1)の二六九万一、三九一円、同(2)の五〇〇万円、前記(四)の五万三、四一二円、前記(五)の八二万四、一二〇円を減算した二億三、五九七万一、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨、以下同様。)であり、被控訴人小沢一志、同小沢惟美、同小沢兼八の相続税の各課税価格は、右「被告の主張」2ないし4の各(一)の金額である二、一一四万〇、七一八円、一、九九〇万四、六七二円及び二、三四四万九、八〇一円にそれぞれ、前記(二)の三九一万九、六〇〇円を加算し、右「被告の主張」1の(三)の(1)の二六九万一、三九一円、前記(四)の五万三、四一二円及び前記(五)の八二万四、一二〇円を減算した二、一四九万一、〇〇〇円、二、〇二五万五、〇〇〇円及び二、三八〇万円であり、被控訴人五十嵐照江の相続税の課税価格は、右「被告の主張」5の(一)の金額七〇三万〇、〇八八円に、同二の九万五、四八四円及び前記(二)の三九一万九、六〇〇円を加算し、右「被告の主張」1の(三)の(1)の二六九万一、三九一円、前記(四)の五万三、四一二円及び前記(五)の八二万四、一二〇円を減算した七四七万六、〇〇〇円である。

そうとすると、被控訴人らに関する相続税の各課税価格は控訴人の主張のとおり原判決末尾添付の別表の各異議決定欄記載のとおりとなるから、控訴人の被控訴人らに対する各再更正及び過少申告加算税の各賦課決定(右異議決定により維持された部分をいう。)には被控訴人ら主張の違法は存しないといわなければならない。

4  しからば、控訴人の被控訴人小沢弘道に対する再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格二億一、九六二万円を超える部分の、同じく被控訴人小沢一志、同小沢惟美、同小沢兼八に対する各再更正のうち各更正の課税価格を超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定の、同じく被控訴人五十嵐照江に対する再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち課税価格七一二万五、〇〇〇円を超える部分の各取消を求める各請求は、いずれも理由がないといわねばならない。

三  よつて、被控訴人らの各請求を認容した原判決は失当であるから、これを取消し、右被控訴人らの各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺忠之 糟谷忠男 渡辺剛男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例